勇気の息吹 -イブキジャコウソウ- (花期:6月~8月)

その名前に、霊峰・白山を意味する「ハクサン」、白山の御山(おやま)を意味する「オヤマ」、白山の御前峰(ごぜんがみね)を意味する「ゴゼン」と、白山を意味するものが冠されている植物は20種類にもおよびます。

それは、古くから信仰の山として大切にされてきた中で、早くから植物の研究も進んだことに由来しているのですが、同じように、「ハクサン(白山)」を冠する植物に匹敵する種類の植物名に冠されている山があります。

それが、滋賀県米原市・岐阜県揖斐川町・岐阜県関ケ原町にまたがる標高1377mの山「伊吹山(いぶきやま)」です。

標高だけで見れば、八ヶ岳南麓・清里高原の「清泉寮」と同じくらい、「八ヶ岳公園サイクリングロード」の中腹くらいではありますが、山の絶対的な価値は標高では計れないことを教えてくれるような山であるといえます。

伊吹山は、石灰岩層の山であること・地理的な環境条件などの要因で植物相が豊かで、植物研究に貴重な山とされており、多くの植物学者や採薬師により調査がされています。

日本では東京都八王子市の「高尾山(たかおさん)」に次いで、三重県いなべ市と滋賀県東近江市の境界の「藤原岳(ふじわらだけ)」と共に、2番目に植物の種類が多い山であるとする調査結果があるほどです。

今回ご紹介させていただくのは、そんな伊吹山の名前を冠する植物のひとつである「イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)」です。

八ヶ岳「西岳」にて。8月中旬

イブキジャコウソウはシソ科イブキジャコウソウ属の小低木です。ハーブとして人気が高いタイム、一般的に「コモンタイム」と呼ばれる、和名「タチジャコウソウ(立麝香草)」とごく近い種類の植物で、日本に分布する唯一のタイムです。

コモンタイムは料理用のハーブとしても良く用いられます。

本来は高山植物ですが、緯度により高山帯から海岸線まで広く分布していて、野生のものは日当たりの良い草地や砂礫地でよく見られます。比較的涼しい環境を好む植物ですが、耐暑性もそれなりにあるため、庭を彩る植物としても親しまれています。

イブキジャコウソウは、細い枝に小さな葉を四方に茂らせて地を這うように生育します。初夏から夏にかけて、桃色から紫色の優しい色合いの小さな花を地際で一面に咲かせる姿はとてもかわいらしく、グランドカバーとしても人気があります。

伊吹山でよく見られ、全体にハーブ特有の芳香があることが名前の由来になっています。イブキジャコウソウをそっと優しく撫でてあげると、清々しい良い香りが辺り一面に広がるほどです。(※注:香りの好みには個人差があります)

このイブキジャコウソウ、生薬名では「百里香(ひゃくりこう)」というそうです。これは、“ 100里(=約392.727km)先まで香りが漂う ” ほどの強い芳香を例えて表したものなのですが・・・

直線距離約400kmでいうと、東京駅から、西に行くと「大阪城」の少し手前くらい、北に行くと岩手県の世界遺産「平泉」の少し先、または、秋田県と山形県にまたがる「鳥海山(ちょうかいさん)」の少し先くらいになります。すごい。笑

植物の香りにはさまざまなものがあり、その効果も、防虫から、私たち人間の心と体にもさまざまに働きます。

植物から抽出した香り成分である精油(エッセンシャルオイル)を使った自然療法である「アロマテラピー」は、健康や美容だけでなく、認知症の予防にも効果があることも分かってきました。

西洋では昔から、タイムの香りは勇気を奮い立たせるといわれ、勇気や創造性、力強さの象徴の植物とされてきたそうです。季節ごとに庭や自然の中で、ときに山旅の稜線で出会える植物の香りを感じながら過ごす日々は、なんとなく幸せも感じさせてくれます。

八ヶ岳「キレット」にて。8月中旬

八ヶ岳「キレット」にて。8月中旬

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