「スプリング・エフェメラル」
( Spring ephemeral )
直訳すると「春の儚いもの」「春の短い命」という意味で、その名を象徴するような植物たちのことを指します。別名「春植物」とも呼ばれます。
この植物の代表格として有名なのが、今回ご紹介する「カタクリ(片栗)」というユリ科カタクリ属の多年草で球根植物です。
カタクリは低地から山地の落葉樹林の早春に、ほかの草木に先駆けて芽生え花を咲かせると、ほかの植物が大きくなる初夏には休眠に入ってしまいます。
地上部に姿を現しているのは春の3ヶ月ほど期間のうち4~5週間程度で、花が見られるのも2週間程度と、本当に「春の儚いもの」なのです。
その後9月末頃までは地下で休眠状態となります。最大30cmほどの深さにある長さ5~6cmの薄皮に包まれた楕円形の球根は、10月下旬頃に発根し始め、根を伸ばして発芽の準備を整えていきます。そして、雪解けを待って地上に顔を出します。
開花後に実る種子には薄黄色のエライオソームという物質が付いており、これが好物であるアリに拾われ別の場所に運ばれることによって生育地を広げています。
↓アリ以外の虫も大好きカタクリの花
「片栗粉(カタクリ粉)」は、かつてはカタクリの球根からデンプンを抽出し、調理に用いていたことにその名前の由来があります。
江戸時代においては、播磨国(はりまのくに=現在の兵庫県南西部)、越前国(えちぜんのくに=現在の福井県嶺北地方・福井県敦賀市・岐阜県北西部)など複数の産地で生産され、特に大和国(やまとのくに=現在の奈良県)の宇陀(うだ)は名産となり幕府へ献上されるなど活発であったといわれています。
しかし、精製量がごくわずかであるため、近年は片栗粉にジャガイモやサツマイモから抽出したデンプン粉が用いられています。
春の短い期間しか現れない植物(花)であり、しかも栽培するのも容易ではないといわれる(NHK「趣味の園芸」より)カタクリですが、その花を見たことがない人でも調味料としてのその名前は誰しもが一度は聞いたことがあるくらいに、古くから日本人の生活とともにありました。
片栗粉として使われなくなった現在も、日本の各所にあるカタクリの群生地は、各自治体で大切に守られ観光の名所として人々に親しまれています。
そんな、カタクリをはじめとする「スプリング・エフェメラル( Spring ephemeral )」の植物たちは、「春の妖精」なんて呼ばれ方もしています。
2018年、記録的な猛暑に見舞われ、まだしばらく続くといわれる日本のアツい夏。地上で人間がうだっている地中では春の妖精たちが、一瞬の煌めきのためにしっかり準備(休眠)しています笑