ゲノムの秘密とミヤマハタザオ (花期:5月~8月)

「物干し竿」といえば・・・

安土桃山時代から江戸時代初期の剣客「佐々木小次郎(ささきこじろう)」の愛刀「備前長船長光(びせんおさふねながみつ)」の通称が「物干し竿」でした。

これは当時、日本の権力者であった「徳川家康(とくがわいえやす)」が出した御触れで、刀の長さを2尺8寸(約87.5cm)以内にするように定められていた中で、佐々木小次郎の所有していた刀(備前長船長光)の長さが3尺(約1m)あったことが一般的には大変珍しく「まるで物干し竿のようだ」といわれたことに由来しています。

今回ご紹介させていただくのは、「まるで旗竿のような」?ミヤマハタザオ(深山旗竿)という植物です。(無駄に長い前置きすみません笑)

実はこの「深山旗竿」、名刀「物干し竿」に負けぬくらいの、剛剣ならぬ剛健です。

「ミヤマハタザオ(深山旗竿)」は、アブラナ科シロイヌナズナ属(ヤマハタザオ属)の多年草です。和名にあるハタザオ(旗竿)の由来は、まさに「まるで旗竿のようだ」に由来しており、ハタザオの仲間はご覧のようなすらっとした立ち姿をしているのが多いのも特徴です。とはいえ、すべてが完全に直立した竿のようにはなっておらず・・・

その姿は、美しくポージングしたファッションモデルのようでもあり、少しマニアックな表現をするならば、まるで「ジョジョ立ち(※1)」のようなカッコよさです。

※1)ジョジョ立ちとは、荒木飛呂彦氏による漫画作品「ジョジョの奇妙な冒険」の作中で登場人物が見せる独特な腰のひねりや手足の動き、物理法則や関節の動きを無視した奇妙なポージングのことをいいます。

作者である荒木飛呂彦氏は、当時の連載作品に負けない個性を求めて、イタリアの彫刻芸術の要素を作品に取り込んだとインタビューで語っており、それが現在のジョジョ立ちにつながったとされます。

ミヤマハタザオのすごさは、「ミヤマ(深山)」という名前を冠していながら、「標高万能型」と称される生態にあります。

ミヤマハタザオは北海道、本州、四国(剣山)などで見られる植物ですが、信州大学地球環境報告書の「標高万能植物ミヤマハタザオの適応機構:生態・生理・遺伝子」によりますと、中部山岳地域では標高30~3000mに分布しており、

“ ミヤマハタザオがどのように広い標高に適応しているのか、亜種間の標高・生活史がなぜこれほど違うのかを調べることで、植物の標高に対する適応機構と、地球温暖化が植物に与える影響に対する理解が進むだろう。 ”

として、その研究成果が報告されています。

また、科学研究費助成事業 研究成果報告書の「標高傾度に沿って分布するシロイヌナズナ属野生種の温暖化適応形質の進化」でも、

“ 地球温暖化は、生物の進化にどのような影響を与えるのだろうか。モデル植物(※2)のシロイヌナズナに近縁な野生種であり、幅広い標高帯に渡って分布するミヤマハタザオを材料とし、標高適応の機構を遺伝子レベルから明らかにすることで、環境変化が生物に与える影響を進化的視点から理解しようと試みた。 ”

として、研究成果が報告されています。

※2)モデル生物(モデル植物)とは、生物学、特に分子生物学とその周辺分野において、普遍的な生命現象の研究に用いられる生物(植物)のこと。

シロイヌナズナは、植物のモデル生物として有名で、2000年12月に植物としては初めて全ゲノム解読(※3)が終了しました。

※3)ゲノムとは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から合成された言葉で、ある生物種を規定する遺伝情報全体のことです。

また、ゲノム解析(ゲノム解読)とは、多くの生物の遺伝情報を解明することをいい、現在、遺伝子情報(DNAの塩基配列)は自動的に解読でき、コンピュータで解析できるようになりました。人間のゲノムであるヒトゲノムの解明は特に重要とされており、病気の予防や診断・治療に結びつきます。現在、ほぼすべての情報の解読が終了しましたが、遺伝子の役割と病気との関係の解明はまだこれからです。

今回ご紹介している写真のミヤマハタザオは八ヶ岳の標高2500mを超える稜線でのものです。こんな可憐に揺れる姿の内側には、人間では到底及ばない能力や、環境変化が生物に与える影響のヒントが秘められています。

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