毒々キノコの正体

今から2ヶ月ほど前の8月29日(火)に「八ヶ岳の空」という投稿をいたしました。

内容は、記録的な日照不足に陥った2017年の8月の中で、久々に取り戻せた八ヶ岳本来の青空についての話題でした。八ヶ岳の美しい青空とともに紹介したのが、長雨の恩恵ともいえる「キノコ」の豊作についての話題でした。

下記写真は、その時に紹介させていただいた写真と記事の一部です。

“ そしてここ八ヶ岳南麓でもまた、長雨の影響で、自然の中を歩くといろんなキノコが例年より多く見られます。 なかなか毒々しい赤いキノコを発見しました。知り合いのキノコ名人も豊作だと喜んでいました。初心者の方々のキノコ採取は名人や専門家に見てもらうとより安全です。 ”

後に、この毒々キノコの正体が何であるかが分かったのですが、キノコ名人が読んだら笑われてしまうくらい有名な美味しいキノコでした。もちろん無毒です。その名も・・・

「タマゴタケ(卵茸)」。

名前からして美味しそうなこのキノコはテングタケ科テングタケ属に分類されるキノコの一種です。しかしながら「テングタケ(天狗茸)」といえば毒キノコとしても有名で、その仲間には「猛毒キノコ御三家」と呼ばれる危険な毒キノコが存在します。

■ドクツルタケ(毒鶴茸)・・・欧米では「Destroying Angel(=破壊の天使)」という異名を持ち、1本(約8グラム)で人間一人の命を奪うといわれ、日本においても死亡率が高い白いキノコ。

■タマゴテングタケ(卵天狗茸)・・・ヨーロッパやニュージーランドなどでよく見られ、「Death Cap(=死の傘)」としてよく知られているキノコ。稀に北海道で見られ、本州以南で見られることはほとんどない。

■シロタマゴテングタケ(白卵天狗茸)・・・文字通りタマゴテングタケを白くしたような容姿で世界中に広く分布している。秋田ではその毒性から「イチコロ」という地方名で呼ばれるキノコ。

猛毒キノコ御三家の中毒症状は、ほぼ似通っていて2段階に分けて起こります。

まず食後24時間程度で激しい嘔吐・下痢・腹痛が起こり、その後、小康状態となり回復したかに見えます。しかし数日後、肝臓・腎臓など内臓の細胞が破壊され、早期に適切な処置がされていない場合ほぼ確実に死に至ります。

タマゴタケはそんなテングタケの仲間にあり、その鮮やかな色から毒キノコと誤解されることが多いそうです。現に私も毒キノコだと思いました。(タマゴタケさんすみません。)

ただ、そんな無毒な美味しいキノコが一般に流通しないのは、このキノコ自体が壊れやすい性質があること、そして、人の手で培養が困難なキノコであるためです。

培養が困難な理由は、説明するとかなり難しくなるので、とても簡単にまとめさせていただくと、「マツタケ」「トリュフ」「ポルチーニ」そして「タマゴタケ」に代表されるキノコの菌は少し特殊な種類で、生きている樹木からの炭素源の供給がないと増殖できない、いわゆる「樹木との共生関係」で生きているキノコなのです。そのため、原木や菌床を用いた従来の方法では栽培することができません。

タマゴタケの近縁種に「セイヨウタマゴタケ(西洋卵茸)」というキノコがあり、欧州では「皇帝のキノコ」と呼ばれ高級食材として知られています。残念ながら日本の森で見かけることはほとんどないのですが、近縁種であるタマゴタケの旨味も濃厚であり、どんな料理にも合う美味しいキノコとされています。

タマゴタケの名は、古くからこれを食用として利用していた信州地方の呼称で、白色の皮膜に覆われた幼菌の内部が卵黄色の組織で満たされている様子が、鶏の卵に似ていたことから付けられたそうです。ここ八ヶ岳南麓でも、夏から秋にかけて広葉樹や針葉樹の林で見られます。

毒々キノコの正体は「皇帝のキノコ」(の近縁種)でした。キノコを採取して楽しみ、食べてまた楽しむ。山で生活するものの楽しみであり、最高の贅沢のひとつでもあります。ただ前述したように、キノコは危険な種類も数多くありますので、己を過信せず、名人や専門家の知識に頼ったり、散策についても細心の注意を払い安全を心がけて自然の恵みを楽しんでいただけたらと思います。

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