信玄棒道「板東三十三観音」を巡る

ここ山梨県北杜市・八ヶ岳南麓の地域には「信玄棒道」と呼ばれる戦国時代からの古道が残されています。文化庁「歴史の道百選」、日本ウオーキング協会「美しい日本の歩きたくなるみち500選」などに選ばれている歴史ある道には、四季折々に彩られる美しい自然と、観音様の像が安置されています。

今回はそんな観音様から「坂東三十三観音」様を順に巡ってみたいと思います。信玄棒道については、投稿記事 日本歴史の道百選:信玄公の「棒道」 と併せてご覧いただき、棒道巡りを楽しんでいただけたらと思います。

信玄棒道で見られる観音様は

六観音

信玄棒道の観音様には、六観音がいらっしゃいます。平安時代頃より京都の寺を中心に六観音巡りが始まり、やがて「西国三十三所」や「坂東三十三所」の観音霊場巡りへと移っていきました。

六観音信仰は、六道(地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人、天)の世界で、業により何度も生死を繰り返す六種の世界からの救いを求めて始まりました。最初は貴族を中心に信仰されていましたが、やがて庶民にも広がりました。六観音信仰をモデルに六地蔵信仰が生まれ、観音は現世利益の功徳がが優先されるようになりました。

六観音様のそれぞれの解説と、そのご利益については次からの項目をご覧ください。(「八ヶ岳 信玄棒道 ウォーキングマップ」の解説を参照させていただきました。)

馬頭観音(ばとうかんのん)

【畜生道からの救済】

頭上に馬頭をいただくところから馬頭観音といいます。牙をむき出した忿怒相になっている為に馬頭明王と称されます。一切の障害を打ちくだき、無明の世界にあって諸々の悪を断つとされています。

【ご利益】

病息災、動物救済、厄除け、旅行安全など

千手観音(せんじゅかんのん)

【餓鬼道からの救済】

正式名は千手千眼観世音菩薩。手にはそれぞれに目が付いており、煩悩に迷える衆生を導く
ことをあらわしています。観音の中の王という意味で蓮華王とも言われます。

【ご利益】

災難、延命、病気治癒、夫婦円満、恋愛成就など

聖観音(しょうかんのん)

【地獄道からの救済】

千手観音や十一面観音などの変化観音が制作されるようになり、それまでの観音を聖観音
と呼びました。聖観音は一面二臂像のみです。正統的観音という意味で、聖観音(正観音)といいます。

【ご利益】

苦難除去、現世利益、病気平癒、厄除けなど

如意輪観音(にょいりんかんのん)

【天道からの救済】

一面六臂(いちめんろっぴ)の坐像が多く、女性のような容姿が多く見られます。六本の手によって六道輪廻からの救済を図るといわれます。思いのままに願いごとを叶えてくれる宝珠と、敵を打ち砕く輪宝を持った観音です。

【ご利益】

智慧、財福、福徳授与、安産、延命など

不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)

【人道からの救済】

獣皮をまとい羂索(縄)を持った姿に造形されています。不空羂索は確実な投げ縄と言われ、大慈悲の心から煩悩に苦しむ衆生を投げ縄によってもれなく救い取るという意味を持ちます。

【ご利益】

健康長寿、病気治癒、財福授与、罪障消滅など

十一面観音(じゅういちめんかんのん)

【修羅道からの救済】

中心・北・北東・東・南東・南・南西・西・北西・上方・下方の方角に常に目を向けて衆生を救うとされる菩薩で、正面三面は慈悲相・左三面は瞋怒相・右三面は牙を出す相・後一面は暴悪大笑相、頂上一面は如来相です。

【ご利益】

離諸疾病、財福授与、延命など

坂東三十三観音とは

「坂東(ばんどう)」とは、関東地方の古称で「足柄峠、碓氷峠の坂の東」という意味です。文献の記述する限りで最も古い時代「吾嬬(あずま)」と呼ばれ、奈良期以降は「坂東(ばんどう)」、鎌倉期以降は主に「関東」の古称が一般化しました。

昔、源平の合戦の頃、坂東の武者たちは九州にまで歩みを進め、源平の戦いの後は、敵味方を問わない供養や永い平和への祈願が盛んになりました。

源頼朝の厚い観音信仰と、多くの武者が西国で見聞した西国三十三観音霊場への想いなどが結びつき、鎌倉時代の初期に坂東三十三観音霊場が開設されました。

やがて、秩父三十四観音霊場を加えた日本百観音霊場へと発展し、今日に至っています。

信玄棒道 坂東三十三観音

この観音様の像は江戸時代末期、「西国三十三所」「坂東三十三所」の霊場を模して、棒道沿いの1丁(約109m)おきに30数基が安置されたといわれており、棒道の傍らには現在も、観音様たちが優しい表情でたたずんでおられます。

大泉から小淵沢に至るまでの信玄棒道では、ごく前半に「西国三十三観音」様の像も見られますが、全般で主に見られるのは「坂東三十三観音」様の像です。また坂東の像には立て看板で紹介されていたりするので見つけやすく分かりやすいです。

北杜市から発行され、小淵沢駅でもいただける「八ヶ岳 信玄棒道 ウォーキングマップ」にも、分かりやすいマップや解説と共に、それらの観音様が安置されている場所まで案内されていますので、「八ヶ岳 信玄棒道 ウォーキングマップ」を手に観音様探しの旅も楽しいかもしれません。

ただ、その名のように本来なら西国・坂東共に三十三柱いらっしゃるはずの観音様ですが、現在すべては揃っていない、もしくはルート上からは見つけられない場所にあるようです。ちなみに、坂東でいえば、8番・12番~15番・17番~33番の観音様の像はいらっしゃいません。

また、ほぼルート上にいらっしゃる観音様でも6番だけは少しだけ離れた場所にいらっしゃり、「八ヶ岳 信玄棒道 ウォーキングマップ」にも記載はありません。

もし、上記を見つけた方がいらっしゃったら、ぜひ「賢者の森・お問い合わせ」まで教えてくださると、大変嬉しいですし、必ず喜んで見に行きます(笑)

一番 十一面観音立像

二番 十一面観音立像

三番 千手観音立像

四番 十一面観音立像

五番 十一面観音立像

↑ここにいらっしゃる観音様みな神々しいのですが、ちょっと微笑んでいるかのように見える姿が個人的に一番好きな観音様の像です。

六番 聖観音立像

七番 聖観世音文字塔

九番 千手観音坐像

十番 千手観音坐像

十一番 聖観音立像

十六番 千手観音坐像

まとめ

私は過去、学校の教科の中では「歴史」が、とくに創成期から古代のものがとても好きだったりしたのですが、かつて、有名・無名を問わずその時代を作り切り開いてきた多くの人たちがどんな風景を見ていたのか、どんなことを思い考えていたのかを想像すると、そんな大きな悠久の流れの末端にいることにロマンみたいなものを感じたり、いろいろなものが安全で便利になった今がとても有り難かったり、先人や歴史の教訓がとても学びになったりして、とても奥深く感じました。

戦国時代から続く古道「信玄棒道」には、江戸時代から見守る観音様の像があります。

それはそんな先人たちが、大きくは「平和」や「安泰」などを願ってつくり、地元の人たちや行き交う多くの人たちが、ここで手を合わせていたかと思うと、なんとなくそんな風景が目に浮かぶようで、私も同じように笑顔がずっと続く世の中であってほしいと願います。

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