幸せ運ぶ香り ヤマナシの実

清里高原のシンボル、そして山梨県の名前の由来にもなっている「ヤマナシの木」は、とくに花咲く春と、実りの秋にその存在感を増します。

花期の「ヤマナシの花」の美しさは前回の投稿記事「A standing witness of times gone by.」をご覧いただけたらわかっていただけるかと思いますが、今回は、秋に実る「ヤマナシの実」にフォーカスしてみたいと思います。

ちなみに、一般的に山や自然の中に自生している野生の梨を広義にヤマナシと呼ばれていることが多く、狭義においてのヤマナシは「ニホンヤマナシ」を指しています。賢者の森では広義の意味で親しみを込めてヤマナシという名称を使わせていただいておりますが、厳密には日本に古くから自生している野生の梨(ヤマナシ)の仲間は3種、そのうち1種は2つの変種に分かれています。

■ニホンヤマナシ(日本山梨)(P. pyrifolia Nakai)

■マメナシ(豆梨)(Pyrus calleryana Decne.)

■ミチノクナシ(陸奥梨)(P. ussuriensis Maxim.)

├ イワテヤマナシ(岩手山梨)(P. ussuriensis var. ussuriensis)

├ アオナシ(青梨)(P. ussuriensis var. hondoensis Rehder)

ニホンヤマナシは主に北東北を除く本州に自生しています。

そして、以下に紹介するマメナシ、イワテヤマナシ(ミチノクナシ)、アオナシは環境省レッドリストの絶滅危惧に指定されています。

マメナシは主に東海地方に自生し、愛知・三重ではその群落が見つかっており、国や市の天然記念物に指定されています。ちなみに1cmほどの果実は渋みが強く、かなり美味しくないので、食用には向かないとされています。

イワテヤマナシは北上山地を中心とした東北地方北部に分布していますが、栽培種との交雑がかなり進んでいることから、純粋な野生個体の存在がほとんどなくなっている可能性が報告されています。

そして、ここ八ヶ岳周辺で見られるヤマナシと呼ばれるものの多くは「アオナシ」だといわれています。

アオナシは近年の分類学的研究で、八ヶ岳を中心とする山梨・長野両県に跨る地域に多く分布していることがわかってきました。イワテヤマナシに比べ、アオナシでは真の野生と思われる個体がまだかなり残っているため、日本に遺された貴重なナシ属野生遺伝資源であり、ゆえに貴重な地域だといえます。

しかし、自生地にあたる標高1000 ~ 1600 m程度の地域は、まさにリゾート地帯として開発が進んでいる場所に当たるため、アオナシの自生個体は、今後急速に減少する可能性が指摘されています。

地元では多くの人が親しみを込めてヤマナシと呼んでいるアオナシ。過去、そして現在でも、栽培されている個体も各所で見られ、地元の人に愛されてきた木であることが伺えます。その特徴はイワテヤマナシと同様に、強い華やかな香りをもちます。地元では、果実を採取して室内の香り付けに用いたり、果実酒を作成する等の利用が行われています。

私個人としては、今年は、前者の「室内の香り付け」として楽しませていただきました。山で拾ってきて本日で20日。さすがに香りは薄くなりましたが、良いものを選べば2週間ほどは確実に香りを楽しむことができ、幸せな気持ちにしてくれます。

※最後に、今回、「農業・生物系特定産業技術研究機構・果樹研究所・遺伝育種部・遺伝資源研究室」様の『山梨県・長野県におけるアオナシの探索・収集』を主な参照資料とさせていただきました。貴重な研究資料を読ませていただいて、大切な事実を伝えることができました。この場を借りて心から感謝申し上げます。

貴重な実りに、今年も感謝

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