月の女神か地の精霊

とある日の夜、玄関先でとても美しい羽に出会いました。

薄い緑色のような水色のような美しい羽の持ち主は、「オオミズアオ」か「オナガミズアオ」という、いわゆる蛾の仲間です。

実は「オオミズアオ」と「オナガミズアオ」はとても似ていて、その見分け方は各所で紹介されていたりするのですが、あまりに似ているため「正確には交尾器を見なければならない」と締めくくられているほどで、現在の見た目だけで断定はできないと判断し、上記のような紹介となりました。

蛾と蝶の違いとは?

そもそも、「蛾(ガ)」と「蝶(チョウ)」の違いとはどのようなものなのでしょうか?一般には下記のような違いがあると言われていますが、先に極論を言えば、実は蛾と蝶は同じ「鱗翅目(りんしもく)」であり、区別されません。

■蝶は昼に飛び、蛾は夜に飛ぶ。

昼行性の蛾もいる。

■蝶の羽は派手だが、蛾の羽は地味。

世界で最も美しい鱗翅目のひとつに数えられる、アフリカ東岸沖のマダガスカル島固有種「ニシキオオツバメガ」は蛾です。

■蝶の触角は棍棒状だが、蛾の触角は櫛形もしくは尖っている。

熱帯地域には蝶のような触角をもった蛾もいる。

■蝶は羽を垂直にとじてとまるが、蛾は羽を水平にひろげて止まる。

蛾の仲間には羽を垂直にとじてとまる蛾もいる。

■蝶は細めだが、蛾は太め。

太い蝶もいるし、細い蛾も多くいる。

日本においては、ほとんどが上記の方法で区別できると言われていますが・・・蛾と蝶を区別するには例外が多く、形態や生態で判断するにはその境界線は曖昧です。そのため、実際、現在の分類学では「蝶と蛾」という区別はありません。

また、日本語では「蝶(チョウ)」と「蛾(ガ)」、英語では「Butterfly(バタフライ)」と「Moth(モス)」、というように区別していますが、ドイツ語圏、フランス語圏、ロシア語圏など文化によっては両者を区別していません。

現在、日本に定着している

「蝶は美しく、観賞に堪える昆虫」

「蛾は害虫が多く、不快な昆虫」

というイメージは分類学や地球規模の常識で見ると一般的ではないのかもしれません。

「月の女神」か「地の精霊」

ある日の夜に出会った「オオミズアオ」か「オナガミズアオ」は、その美しい姿から連想させるような、とても美しい学名がついています。

「オオミズアオ(大水青)」・・・現在は「Actias aliena」という学名に変わっていますが、旧学名「Actias artemis」。かつて月の女神「アルテミス」を冠されていました。

「オナガミズアオ(尾長水青)」・・・学名「Actias gnoma」。「ノーム」とは、大地の精霊を指す名前です。ノームは小鬼のように小さな容姿をした精霊と言われています。

ちなみに「Actias」は「アテネの」という意味があるようです。

ミズアオの美しさはいかがでしょうか?「オオミズアオ」か「オナガミズアオ」か一生懸命調べてはみたのですが、どれも断定するには根拠が薄く、共通する名前の部分で「ミズアオ」なんて勝手に呼ばせていただきましたが「蛾だから」「蝶じゃないから」という理由だけで遠ざけてしまうには、あまりにもったいない自然の中の隣人です。

「ミズアオ」の出現期は4~8月頃で、初夏と真夏の二回発生します。幼虫は「モミジ」、「ウメ」「サクラ」「リンゴ」などのバラ科、ブナ科、カバノキ科ほか多くの樹木の葉を食べます。サクラの木が大好きなので都心でも比較的見ることができます。

「ミズアオ」は成虫になると口が退化して、物を食べたり飲んだりすることはありません。幼虫の時に蓄えた栄養のみで生きるので、成虫になってから約2週間という、人間から見たらとても儚く思える一生を終えてしまいます。

近年、上記のように都心でもよく見かけ、その美しい羽と、純白でモフモフな姿は、SNS上で「きれい」かつ「カワイイ」として、ちょっとした人気があるようです。インターネットで「オオミズアオ 擬人化」なんて検索してみると、そのちょっとした人気と併せて日本人ならではの(素晴らしい)文化を垣間見ることもできます。笑

極度に虫全般が嫌いでなければ・・・そんな月の女神様か地の精霊様、そっと観察してみてはいかがでしょうか?「蛾」という固定概念を覆してくれるかもしれません。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする