北半球の亜寒帯から熱帯の山地までのきわめて広い範囲に分布し、いずれも派手で大きな花を咲かせ、見る人々を魅了している植物が「シャクナゲ(石楠花または石南花)」です。
シャクナゲの原種は19世紀中期、プラントハンターによって中国から西欧にもたらされ、その花の美しさと豪華さで当時の人々を驚嘆させ、数多くの交配が行われてきました。これまで世界各地で5000を超す園芸品種が作出され、西洋では春を彩る花木として庭に欠かせない存在となっています。(NHK「趣味の園芸」より)
シャクナゲは、特にヒマラヤ周辺に多くの種が分布しており、ここ日本の高山帯には「キバナシャクナゲ」が、高山帯から亜高山帯にかけては「ハクサンシャクナゲ」があります。
今回ご紹介するのは八ヶ岳の稜線に咲く「ハクサンシャクナゲ(白山石楠花)」です。
「ハクサンシャクナゲ(白山石楠花)」はツツジ科ツツジ属シャクナゲ亜属の常緑低木です。樹高は、高山帯の厳しい環境では50cmほどにしかならないのに対して、亜高山帯では3m近くまで達するものもあるといわれています。
「ハクサン」を冠する和名の由来は、「白山(はくさん)」という山で発見されたことに由来しています。白山は石川県白山市と岐阜県白川村にまたがる標高2702mの山で「富士山」「立山」と並んで日本の三大霊山として知られています。
霊峰・白山を意味する「ハクサン」、白山の御山(おやま)を意味する「オヤマ」、白山の御前峰(ごぜんがみね)を意味する「ゴゼン」とその名前に、白山を意味するものが冠されている植物は20種類にもおよびます。
これは、古くから信仰の山として大切にされてきた中で、早くから植物の研究も進んだことに由来しています。
ハクサンシャクナゲの花は名前に「白」が付くだけあってとてもきれいな白色が目を引く花です。しかし、純白ではなくほんのりと淡い紅色を帯びていてとても可憐です。
下記写真は6月中旬頃の八ヶ岳南麓の稜線に咲くハクサンシャクナゲです。八ヶ岳の東側斜面に咲いており、ご来光の光を受けてとてもきれいに輝いていました。
実は、野生・園芸の品種問わずシャクナゲの仲間全般にいえることですが、シャクナゲは、葉にグラヤノトキシン(ロードトキシン)などの痙攣毒が含まれる有毒植物です。摂取すると嘔吐、下痢、呼吸困難などを引き起こすことがあります。
葉には利尿、強壮の効果があるとしてお茶の代わりに飲む習慣を持つ人が多く存在しているといわれています。これは「シャクナゲ(石楠花または石南花)」の漢字が、中国で薬用植物とされるバラ科の Photinia serrulata (オオカナメモチ)の中国名(石楠または石南)を間違えて充てたという説があり、同一のものと勘違いしたためといわれています。
シャクナゲをはじめとしたツツジ科の植物には毒を持つものが多く、蜜にも毒性成分が含まれることがあり注意が必要です。厚生労働省の報告によると、諸外国では春の蜂蜜による中毒例が各地であり、マレーシアから持ち帰った蜂蜜による視覚異常、呼吸困難、歩行困難などの症状で病院に搬送された例(2012年に専門誌に投稿)があるとのことです。
山や自然は本当に美しく癒されるものであふれています。その反面、そこに一歩足を踏み入れれば野生の動物や、毒や棘を持った植物なども存在していて、地形も安全な場所ばかりではありません。しかし、山や自然に関するいろいろな知識を持つことで「想定外の危険」の多くが「想定された危険」に変えることができ、回避していくことができると思います。
それは自分の身を守るためであり、自然とそこに暮らす動植物を守るためでもあり、「知ること」の第一歩は、好きであること・リスペクトすることなんだと感じています。これからもそんな、自然が大好きな想いであふれた「賢者の森」で在れたらいいなと思います。