日本には「奥ゆかしい」という言葉があります。そして・・・
古くから「奥ゆかしさ」を兼ね備えたことを美徳のひとつともされてきました。
「奥ゆかしさ」は、現代の「控えめ」や「あざとい」のどれとも異なり、また「動作を大げさにし気づかせる」わけでもなく、深い心遣いが感じられ品位があり心がひかれる様、「もっと歩み寄りたい」または「近づきたい」と思わせたり、人を動かすほどまでに惹きつける配慮がある様です。
「ゆかしい」という言葉は、動詞「ゆく(行く)」の「ゆかし(行かし)」で、「行きたい」と言う意味です。「奥ゆかしい」は「奥まで(見に・触れに)行きたい」というところから、転じて「慎み深く上品で心がひかれる」「こまやかな心配りが見える様子」という意味をもつ言葉となりました。
当ブログ「賢者の森」では、これまで何度となく高山植物についてご紹介させていただいてきましたが、高山植物のもつ多くの魅力の中のひとつには、そんな「奥ゆかしさ」があるような気がします。
今回ご紹介する「ツガザクラ」もまた森林限界を越えた先の高山帯に生息する高山植物で、桜という名を冠してはいますが、大きかったり派手だったり無数の花を咲かせたりするわけではなく、大きく枝を広げたり空高く幹を伸ばしたりするわけでもありません。
しかし多くの植物がなかなか生きられないような高山の岩場に、うつむきながら咲く白地にほんのり桜色の小さな花、上品なワインレッドの花柄(かへい=花軸から分かれ出て、その先端に花をつける小さな枝)と萼片など、本当に素敵な花だと思っています。
ツガザクラ(栂桜)は、ツツジ科ツガザクラ属の常緑の小低木です。
過去ご紹介させていただいた高山植物の説明と重複しますが・・・
常緑性の植物とは、幹や枝に一年を通じて葉がついていて、年中、緑の葉を見ることができる植物のことです。
また、低木とは、樹高が約3m以下のものをいい、その中でも約1m以下のものを小低木と分類されています。
ツガザクラは、花がサクラ(桜)色をしており、葉がツガ(栂)に似ていることから、その名が付きました。
木でありながら樹高は10~20cm、葉はご覧のような線形で長さ4~7mm・幅1.5mmほどにしかなりません。花は枝先に2~6個ほどつけ長さ4~5mm・幅3~4mmの鐘型で先端は浅く5裂します。
いろいろな価値観を持った人がいて、国際的にもいろいろな考え方を持った人がいるので、古くからある日本の美徳が現代や国際的に、必ずしも受け入れられるものかは分かりませんが、ツガザクラを見てどこか「奥ゆかしさ」を感じ、それが素敵だなと思うのも私が日本人であるがゆえなのかもしれません。
ツガザクラは、日本の本州(福島県から鳥取県)と四国(愛媛県)に分布しており、実は、日本の固有種です。固有種とは、その国、あるいはその地域にしか生息・生育・繁殖しない生物学上の種のことをいい、地域個体群の絶滅が、即座に種そのものの絶滅につながるので、保護対象として重要な意味をもっています。
山や自然はいろいろな楽しみ方や付き合い方がありますが、私の場合、すごく楽しいと思いながらもけっこう追い込んでいることが多いので・・・(笑)、そんなときに自分を見つめられたり、いろいろ学ばせてもらってたりヒントをもらってたり、山や自然やそこでの出会いからは本当に貴重で大切な時間をいただいています。
日本固有の種ツガザクラ先生から、そんな追い込み状態のときに、日本人らしくて良いなと思えるような 思われるような生き方をしていけたらいいなと感じられたのは、そんな日本固有の美徳が感じられるような「奥ゆかしい」素敵な姿があったからでした。