私の住む八ヶ岳南麓、北杜市には、おもしろい歩道橋があります。
それは「森と命を繋ぐ歩道橋」と呼ばれ、その取り組みは環境省の「グッドライフアワード2015」環境大臣賞優秀賞を受賞しています。今回は、そんな素敵な歩道橋と取り組みについて簡単にご紹介させていただきたいと思います。
森と命を繋ぐ歩道橋、正式名称「アニマルパスウェイ」。
Animal(動物)+ Pathway(通り道)を連結した造語で、その名の通り、動物のための通り道・歩道橋なのです。では、どのような動物のため、何のために造られているのでしょうか?まずは、実際のアニマルパスウェイがどのようなものかをご覧ください。
高さ:約6.9m、全長:約13m。
人の目からはかなり高い場所を通っているのがお分かりいただけると思います。樹上の高さに架かる歩道橋は、まさに、リスやヤマネなどに代表される樹上性動物のためにつくられているものです。
では、なぜこのような歩道橋がつくられるようになったのでしょうか。
世界の森林率でみる日本の森林の豊かさ
国際連合食糧農業機関(FAO)から報告されている、森林に関する世界的な統計によると、日本の森林率は68%です。
これを他の主な国と比較してみると、アメリカ合衆国は33%、ナイアガラ・フォールズ(ナイアガラの滝)やカナディアン・ロッキー(バンフ国立公園等)で有名なカナダでも38%です。タイガと呼ばれる針葉樹を中心とした広大な森林地帯が大半を占めるシベリアで有名なロシアは49%。ブラジル59%。オーストラリア16%。ヨーロッパに目を向けてみると、ドイツ32%、フランス31%、イタリア31%。アイガーやマッターホルンやモンブランといった名峰を有するスイスでも31%。ヨーロッパ北欧の一部は森林率が高く、スウェーデン68%、フィンランド73%となっています。
ー 世界の森林率 -
■日本・・・・・・68.46%
■アメリカ・・・・33.90%
■カナダ・・・・・38.17%
■ロシア・・・・・49.76%
■ブラジル・・・・59.05%
■オーストラリア・16.24%
■ドイツ・・・・・32.76%
■フランス・・・・31.03%
■イタリア・・・・31.61%
■スイス・・・・・31.73%
■スウェーデン・・68.92%
■フィンランド・・73.11%
(FAO 2015)
豊かな森林ゆえの問題とそこから生まれたもの
これを見ると、いかにこの日本が世界トップクラスの豊かな森林を持つ国であるかが分かっていただけたかと思います。ただ、それゆえに、山間部・森林地帯を中心に多くの道路や鉄道が森林を分断するように造らざるを得なかったという現実もあります。
森林が分断されると、そこで暮らす動物たちの餌を得る機会や繁殖機会が少なくなるため、地域での貴重種の減少や絶滅につながるなど生態系に影響を及ぼします。また、道路を横断しようとした動物がクルマにひかれてしまう「ロードキル」の問題も深刻です。
そこで狸や鹿などに対してはボックスカルバート(地中に埋設される箱型の構造物。鉄筋コンクリートなどで造られ、道路、水路、通信線等の収容など各種の用途に使用される。)などでアンダーパスが作られその利用も確認されていますが、樹木の枝の重なりを利用して移動する樹上性動物には、ほとんど代替手段がありませんでした。
北杜市清里のアニマルパスウェイは、そんな問題から樹上で暮らす動物たちを保護するために立ち上がった方々と様々な有志の方々の賛同と協力でつくられたものなのです。そしてその取り組みは、動物たちと人間が上手に共存できる環境づくりとして高く評価され、環境省の「グッドライフアワード2015」環境大臣賞優秀賞の受賞に至りました。
清里の「キープ協会 清泉寮」にはそんな、ヤマネやアニマルパスウェイを紹介する「やまねミュージアム」があり、また、アニマルパスウェイの1号機(上記の写真は2号機)も近くに設置されています。
下記の写真は清里高原道路にある「ヤマネブリッジ」。現在つくられているアニマルパスウェイの建設費用はヤマネブリッジの約1/10となっています。地方自治体が管轄する道路にも設置できる現実的なコスト、もっと動物たちに使ってもらえるためにはどのようにしたら良いのか?普及のための研究は「アニマルパスウェイ研究会」によって現在も進められています。
詳しくは「アニマルパスウェイ研究会」のホームページや「環境省」のホームページの中にあるグッドライフアワードのページでより詳細に紹介され、実際に動物たちがアニマルパスウェイを渡るとても可愛らしい動画が見られますので、ぜひご覧いただけたらと思います。私たちが守り共存したい自然はこのようなものなんだと感じていただけたら幸せです。
森と命を繋ぐ素敵な取り組みについて簡単ではありましたが紹介させていただきました。しかし、「自然っていいな」と思っていただけることが、ひとりひとりができる一番大切な取り組みなのかなと思っています。
もし清里に来られた際にアニマルパスウェイを見かけたら、森と命を繋ぐ取り組みをふと思い出していただけたらとても嬉しく思います。運が良ければ、天を駆ける動物の姿も見られるかもしれません。