地獄谷と幻の水 ~南八ヶ岳~

「地獄谷(じごくだに)」

そんな名前が付いた場所は全国に点在しており、Wikipedia(ウィキペディア=インターネット百科事典)にリストアップされている数は、名所・地名・谷・温泉すべてで25ヵ所にものぼります。(2018/09/05時点)

とくに、火山活動が活発で火山性温泉の熱源となっている場所では、水蒸気などを含む火山ガスがいたるところで白い煙を上げています。このような場所では地熱や火山ガスなどの影響により、植物が育ちにくく、岩肌がむき出しの殺伐とした景観となっています。

このような地形や、大昔の火山地帯が浸食されそれに近い景観をもった場所などを、地獄のような風景になぞらえて「地獄谷(じごくだに)」と呼ばれたりします。

南八ヶ岳にある標高2715mの「権現岳(ごんげんだけ)」の東面にある谷は、清里高原を流れる富士川水系「川俣川(かわまたがわ)」の源流部となっています。

そこは、火山ガスは噴き出してはいませんが、川俣川を遡っていくにしたがって大昔の火山であったころの八ヶ岳がつくりあげた火山岩の石壁に囲まれた場所です。

南八ヶ岳の地獄谷へは、北杜市にある標高1542mの山「美し森(うつくしもり)」の駐車場から林道・川俣線を進んでゆきます。やがて林道は終点を迎えますが、そこから先は川俣川を何度も横切りながら、いくつもの堰堤(えんてい)を乗り越えながら進むトレイルとなり、大小さまざまな岩が転がり厳しく切り立った崖に囲まれた地獄谷の風景へと移り変わっていきます。

とはいえ、初めてこの地獄谷に足を踏み入れた時は、どんな殺伐とした風景(地獄)が広がっているんだろうと思っていましたが、自然がとても豊かで、流れる水は美しくて、地獄という先入観をもって行くには少しもったいない素敵な秘境だと思いました。

ただし、美し森を起点とした地獄谷を含むルートは一般登山者向けのガイドブックや案内などには登場しないルートであり、地獄谷の上流側にある避難小屋「出合小屋(であいごや)」付近から奥(先)は八ヶ岳の稜線へと至る、高度な技術をもった上級者向けのルートとなっています。

しかし、地獄谷を走るトレイル自体は明瞭、かつ所々にマーカーが設置されていてこれを目印に慎重に進めば迷うことはほぼ無く、無人でありながら丁寧に使われている出合小屋を含め、これを整備されている方々の努力や多くのエキスパート達に愛されている場所であることが伺えます。

実は、地獄谷の下流側では、木登りを楽しむ親子に出会ったことがあります。また、花の季節にここを訪れる方もいるようで、地獄谷の上流側にある避難小屋「出合小屋(であいごや)」までは、高度な登山技術がなくても楽しむことができます。

賢者の森の動画( YouTube )

【代わりに山いってきました/賢者の森】(8)南八ヶ岳 地獄谷をゆく[山梨]

を、ご覧いただいたみなさまの中には、もしかしたら何となく違和感を感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、下流側では十分な水量をもっている地獄谷の川俣川が、上流側へ進む途中で完全に干上がったような状態になってしまっているのが、上記写真でもお分かりいただけるかと思います。そして、地獄谷の最も上流側、出合小屋の近くまで来ると再び美しい水の流れが現れます。

この水の流れは、一体どこにいってしまっているのでしょうか。。。?

実は、少しだけおもしろい写真がございます。まずは下記写真をご覧ください。

一見、水量が少ないだけの、ただの川の流れのように見えますが、実は、地表を流れている水の先端となっています。

河川の流水には、地上を流れる「表流水」と地下を流れる「伏流水」があります。

表流水とは、河川、湖沼の水のようにその存在が完全に地表面にあるものをいいます。伏流水とは、河川の流水が河床の地質や土質に応じて河床の下へ浸透し、極めて浅い場所を流れている地下水のことをいいます。

伏流水は直接目に見えず、また、その流れも複雑であることから、通常の地下水との区別がつきにくいため、伏流水か地下水かの判断は難しいといわれています。

ただ、本来の地下水と異なり河道(河川の水が流れる場所)の付近に存在しているので、表流水の変動に直接影響され水理的な関係は極めて強いという特徴があります。

南八ヶ岳・地獄谷の水が流れていない(ように見えている)区間は、水が地面の下を流れている(伏流している)ため、干上がっているように見えていたものでした。

そして、何らかの理由で上流側から流れ出る水量が多いときに、伏流水として浸透しきれない水が、このようにたまに幻のように地表を流れているのだと考えられます。

南八ヶ岳・地獄谷の最も上流側にある避難小屋・出合小屋です。ここは「権現岳(ごんげんだけ)」山頂からちょうど真東へ約1.5km、八ヶ岳最高峰「赤岳(あかだけ)」山頂からほぼ南へ約2.3kmの場所に位置しています。(※地図上の直線距離)

ここからは「赤岳沢」「本沢」などのルートへと分かれ、多くのエキスパート達が旅立っていきます。なので・・・多くの方には一見、小さな小屋にしか見えない出合小屋も、私にはまるで、ロールプレイングゲームで勇者たちが旅立っていく最初の「城」のようなすごい場所に見えてしまします。

これからもここから旅立つ勇者たちの安全をお祈りします(T人T)☆

南八ヶ岳、川俣川の源流部「地獄谷」。名前は地獄でも、そこには清らかな水が、八ヶ岳からの風を運ぶように流れ、多くの植物が揺れ生き物が遊ぶ「命の谷」でした。最深部の谷から見上げる小さな青い空は、そこがまるで秘密基地のような、子どもの頃に感じたワクワク感を思い出させてくれます。

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