川俣川 幻の滝 -小滝-

八ヶ岳南麓の川俣川渓谷には、「吐竜の滝(どりゅうのたき)」という滝があります。ここ北杜市を代表する観光名所のひとつですが、今回ご紹介させていただくのは、同じ川俣川の東沢にあり、吐竜の滝より遥か上流にある滝です。

吐竜の滝については、当ブログ「賢者の森」の記事

吐竜の滝 -新緑の風景-」(2018/05/23)にて

ご紹介させていただいておりますので、ぜひどうぞ。

この滝、登山道(八ヶ岳横断歩道)のすぐ近くにありながら、登山道からほんの少し外れた場所にあり、しかも水量も豊富でないため滝特有のダイナミックな音が出ておらず煙のような水しぶきもなく、主張が少ないため、多くの人は気付かずに素通りしてしまうような滝です。

そのため、多くの人にとっては「幻の滝」になってしまうのです。

八ヶ岳高原大橋(黄色い橋)に立つと眼下に川俣川が流れる川俣川渓谷があり、八ヶ岳へと続いているのが分かります。そのはるか上流には東沢大橋(赤い橋)があり、渓谷の深さはより厳しさを増します。「幻の滝」は、この東沢大橋よりさらに上流に存在します。

八ヶ岳高原大橋(黄色い橋)については、当ブログ「賢者の森」の記事

八ヶ岳高原大橋(黄色い橋)」(2017/07/22)にて

ご紹介させていただいておりますので、ぜひどうぞ。

2017年、その場所はトラロープ(※1)で立ち入り規制された場所の先となっていたため見ることができませんでした。ゆえに本当の「幻の滝」となっていましたが、2018年、崩落した登山道の修復にともない立ち入り規制も解除されました。

※1)トラロープとは、黄色と黒の縞模様が使われたロープで、主に危険個所を示すためなどに使われています。

下流側にある八ヶ岳高原大橋から見える川俣川は、川俣川の東沢と西沢が合わさった後のものになります。下記写真は川俣川東沢になります。下流側と比べると水量は少なめですが、さらに清浄な空気と水が、ひとあじ違った雰囲気を持っているのが分かると思います。

世界に誇る水の山として有名な、同じ北杜市にある南アルプス。この美しい水面を見ていると、八ヶ岳から流れる水もなかなかのものです。清らかで冷たい水が運ぶ空気もまた、清らかで涼しげです。川のせせらぎにもとても癒されます。

岩や木に生える苔の優しい緑と揺れる木漏れ日が、とても美しく幻想的な雰囲気をつくっていました。さまざまな形の岩がつくる風景はとてもダイナミックであり、天然のフィールドアスレチックは子供心をくすぐります。

滝の周辺は特有の清涼感のあるしっとりした風が吹いています。とくに、この滝は水量が少なく規模も小さいものなのでその風はとても優しいです。そんな空気と川俣川の清流に育まれた植物もまたとても優しげで美しい風景をつくっています。

写真の黄色い花は「オタカラコウ(雄宝香)」というキク科メタカラコウ属の多年草です。主に高原や山地の湿地・湿原に自生しており、とても良く似た仲間の「メタカラコウ(雌宝香)」に対してこの名前がついています。

豊かな植生は生き物の暮らしも育みます。オタカラコウに、黒地に青く輝く羽を纏った蝶がとまっていました。特徴から「カラスアゲハ」のオスと思われます。(メスは尾状突起のところにオレンジ色の斑点があります。)

ただ、画像が荒くて本当に申し訳ありませんが、あまりの色彩の鮮やかさから、山地性の「ミヤマカラスアゲハ」かもしれません。

今回の記事に使わせていただいている写真は2011年8月に撮ったものです。2017年の立ち入り規制は、崖の崩落によって登山道が塞がれたことによるものでしたが、川俣川渓谷は、厳しく切り立った地形を多く有した渓谷のため度々崖が崩落したりする場所でもあり、都度このような通行不可の場所が現れたりします。

山や自然の中では、立ち入り規制がかかった場所や、ご自身の登山レベルを超える危険な場所には立ち入らず、どうかご安全に、楽しい時間をお過ごしください。

滝の大きさは、高さ10m×幅10mには収まるくらいの規模です。部分的には、崖の途中から水が流れ出している(染み出している)ように見えましたが、メインとなっている水の流れの起点部分がどこにありどうなっているかは、下からは確認ができませんでした。

この「幻の滝」の種類は、川の水が流れ落ちるのではなく地層の中の伏流水が崖の途中から流れ出して形成されていれば「潜流瀑(せんりゅうばく)」。そうでなければ、川の落ち口から流れ落ちる途中で岩によって幾重にも分岐して流れる「分岐瀑(ぶんきばく)」になると思われますが、しっかりとした測量をしたわけではなく、専門家が見て判断したわけでもないので、あくまで私見という事でお許しください。

川俣川 「幻の滝」は「小滝」

私なりに調べた限りでは、この滝を主役として紹介されたり説明されたものは、ほぼ皆無で、そういう意味でも「幻」のような存在です。ただ、この幻の滝には「小滝」という名前があることが、記載されている地図もあって確認することができます。

しかし、「大滝」「小滝」といった名前は、“大きいから大滝” “小さいから小滝” と呼ばれたかのように、全国各地によく見られる滝の名前のようです。

山梨県早川町の、西側を「南アルプス(赤石山脈)」、東側を「七面山(しちめんざん)」に挟まれた秘境のような場所にある「見神の滝(けんじんのたき)」もまた、かつては大滝と呼ばれていた滝でした。

その後、ときの山梨県知事、吉江勝保氏(官選42代知事:1947年、公選初代知事:1947年~1951年)が「見神の滝」と命名しました。

見神の滝については、当ブログ「賢者の森」の記事

見神の滝」(2017/09/21)にて

ご紹介させていただいておりますので、ぜひどうぞ。

そんな話を聞くと、地元が大好きな私は、この「小滝」にも愛着をもって親しんでもらえるような素敵な名前をつけてあげたくていろいろと妄想してしまいます。妄想族の私としてはそれがまた、楽しくもあります。

水量が豊富なわけではありませんが、白い絹糸のように柔らかく、徐々に広がって伸びている様が、さらさらと涼しげに揺らめいているようであり、すごく清らかなイメージを持ちます。そんな、きれいなイメージを何かになぞらえたような名前はないものか・・・。マイワールドは膨らむばかりです。

かと言って、「白糸の滝(しらいとのたき)」では、長野県軽井沢と静岡県富士宮にそれぞれとても有名なものが既に存在していて同じでは完全に負けてますし、何よりオリジナリティがないという問題が・・・(ー”ー;)

そんな風に考えていて出た結論は、メインとなっている、白く長く優しく揺らめく流れを、ちょっと神々しく「天馬の尻尾」になぞらえて・・・

天馬之尾滝(てんまのおのたき)

とは言え、私には滝の名前を変えられるほどのチカラ(権力?)は到底ありませんが(笑)、ただ、今はまだ多くの人が知らない小さな滝が、いつか、いろんな人に知っていただけて気軽に立ち寄っていただけるようになったら素敵だと思いました。

関連動画

【代わりに山いってきました/賢者の森】(8)南八ヶ岳 地獄谷をゆく[山梨]

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