日向山と白砂の雁ヶ原

その山の良さは単純に標高では計れない と、私は思っています。

南アルプス(=赤石山脈)には日本を代表するような山々が多くあり、そんな名峰連なる南アルプスに存在する「日向山(ひなたやま)」は、標高1660mと、2000mを超えない山でありながら山頂からの風景は「名山」と言えるインパクトがあります。

そんな日向山は山梨県北杜市白州町にある山で、山梨百名山のひとつでもあります。

「白州(はくしゅう)町」は、名峰「甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)」の麓にあり、その登山口の町として知られています。また、そこから町へと流れ出る「白州・尾白川(おじらがわ)」は、環境省(旧・環境庁)選定の名水百選のひとつとしても有名です。

「サントリー・南アルプスの天然水」は、まさにこの地で生まれていて、また、そんな清浄な美味しい水で作られる「サントリー・シングルモルトウイスキー白州」はとても人気で、原酒が足りなくなり現在出荷停止、各地でも品薄になっているほどです。

水の豊かなこの土地が育む美味しいものに「梨北米(りほくまい)」というものがあります。梨北米こしひかりは、日本穀物検定協会の食味ランキングで最高評価の「特A」に5年連続、通算10回(2017年時点)輝いている県産ブランド米です。

JA梨北の組合長(2017年)によると連続5回は全国で11銘柄とのことです。

甲斐駒ヶ岳を含めこの地域の山は、南アルプスの山としては例外的な「花崗岩(かこうがん)」(=石材でいう「御影石(みかげいし)」)という石でできている山となっています。なのでここから流れ出る水は「花崗岩に磨かれた水」と称されたりします。

甲斐駒ヶ岳は、花崗岩のため夏でも白く輝く山肌が遠くからも望めたりしますが、日向山の山頂もそんな花崗岩が風化・浸食して白い砂浜となった「ザレ場(※1)」となっていて、同市の小淵沢あたりからは白く雪が降ったような日向山の斜面が見られます。

これが、日向山の山頂付近に広がる「雁ヶ原(がんがわら)」と呼ばれる場所です。

※1)ザレ場とは、細かな石や砂が広がっている斜面・場所のこと。地砂礫(されき)地。これに対して大きな石が集まっているような場所は「ガレ場」と呼ばれる。ザレ場、ガレ場は足を取られやすく安定して歩行することが難しく注意が必要。

日向山の登山口 & 山頂までの所要時間

国道20号沿い、道の駅「はくしゅう」の近くにある「白州農協前」交差点を県道614号(甲斐駒ヶ岳がある方)へ。その後、案内板に従って進むと日向山山頂への主な2つの登山口「矢立石登山口」「尾白川渓谷登山口」へと至ります。

矢立石は標高約1120m。

尾白川渓谷は標高約770m。

矢立石登山口は、尾白川林道の途中(一般車両が通行できる終点)にあります。尾白川渓谷登山口は矢立石登山口の下側に位置していて、登山道は矢立石を通過します。よって、日向山へ向かうのに、最短である矢立石登山口を利用する登山者はとても多いです。

※尾白川林道(麓集落から矢立石登山口を繋ぐ道)は普通車一台分の道幅のため、混雑時は矢立石登山口付近の駐車スペース(路肩)を含め、車同士のすれ違いの際は十分にご注意ください。

※2018年7月4日現在、麓集落と矢立石登山口とを繋ぐ尾白川林道は崩落のため通行不可となっています。矢立石登山口からの登山はできませんので尾白川渓谷登山口をお使いください。

また、尾白川林道開通の見通しは立っていないとのことです。詳細は北杜市や北杜市観光協会のホームページなどからご確認・お問い合わせください。

矢立石登山口

【駐車スペース】約10台(路肩)

【所要時間】約100分

①矢立石登山口から三角点まで、徒歩約90分。

②三角点から雁ヶ原まで、徒歩約10分。

尾白川渓谷登山口

【駐車スペース】普通車約100台(駐車無料)

【所要時間】約150分

①尾白川渓谷登山口から矢立石登山口まで、徒歩約50分。

②矢立石登山口から三角点まで、徒歩約90分。

③三角点から雁ヶ原まで、徒歩約10分。

日向山と白砂の雁ヶ原

日向山の登山道はほぼ全行程で瑞々しい森林に包まれ、日差しを優しく遮ってくれます。ただ、それだけに高度感のある景色とはほぼ無縁の、人によってはかなり単調な道中と感じるかもしれません。(実際、ガイドブックやネットなどの案内には日向山の登山道自体は単調で面白味が少ないようでけっこう酷評されていたりもします笑)

ただ、山や自然って何に価値を感じるかによって面白味は人それぞれ違ってくると思うのですが、野鳥のさえずり響く素敵な森林浴もまた日向山の楽しみだったりします。一見単調な風景に見えながら、木陰には「ギンリョウソウ(銀竜草)」がいたり様々な山野草が出迎えてくれますし、可愛らしい動物にひょっこり出会えたりもします。

そして、日向山にある三角点(※2)もまた、森の中にひっそりとたたずんでいます。

※2)三角点(さんかくてん)とは、正確な位置を求める測量をおこなうために、国土地理院が作った位置の基準となる点のことです。

測量は「三角測量」という、三角形の一辺の距離と二角の角度を知ることにより他の二辺の距離を計算で求める方法でおこないます。このようにして、すでに位置関係が分かっている二つの点から新しい点の位置を求めていきます。

この基準となる(なった)点には花崗岩製の標識が埋設されており、「三角点」と呼ばれています。ちなみに、この三角点は地図上には「△」の真ん中に「・」で表示されています。まさに、「さんかく(△)てん(・)」です。

日向山の三角点のある地点から先は強烈な登りは無く、西に約10分歩いたところで森林の風景がトンネルを抜けたかのように一気にひらけ、まぶしいくらいの白砂と、北東方面の八ヶ岳から南西方面の甲斐駒ヶ岳まで見渡せる風景が迎えてくれます。

ここが、「雁ヶ原(がんがわら)」と呼ばれる場所となります。

↓雁ヶ原の東側に立つと北東方向に八ヶ岳が望めます。(薄くてすみません)

↓上記と同じ場所からは雁ヶ原の先、南西方向に甲斐駒ヶ岳の山頂が望めます。

↓上記、甲斐駒ヶ岳のある風景から少し左側に視線を移すと・・・

↓南方面は木々に覆われています。ちなみに、白い砂にポツポツとたくさんの足跡が見られますが、その多くが動物のものと思われます。まるでオーストリッチ(※3)レザーのようで、高級感漂う(?)砂浜です。

※3)オーストリッチはダチョウのこと。オーストリッチ皮は天然素材としては第一級のスペシャルレザーとしてデザイナー達の創作意欲を掻き立てる。高級化・個性化時代にあって、野性味の中にエレガンスさを秘めた風合いが好まれている。

[全日本爬虫類皮革産業協同組合より引用]

↓雁ヶ原の北側は急激に落ちており、踏み込み過ぎると吸い込まれていきそうなアリ地獄のようにすら見えます。こちらの谷には神宮川という川が流れています。

(本当に危険ですので覗き込みはほどほどに。)

↓雁ヶ原の丘の頂点付近には日向山山頂の標識があります。朽ちた木がオブジェのようで、「山」と書いてあるようにも見えますし「電波三本(=いわゆる昔言われた「バリ3」)」にも見えます。

↓こちらは、お馴染み「山梨百名山」の山に立てられる標識ですが、少し文字が擦れてしまい、見えにくくなっています。後ろの板はもはや、完全に板そのものです。

↓ここは雁ヶ原の西側に位置している斜面です。ここを下ると「錦滝」という、日向山を周遊する際にはぜひ回ってほしいスポットに行けるのですが、2018年7月4日現在、崩落のため通行が禁止されています。

↓上記写真から少しだけ右側に視線を移すとこのような風景になります。この道のすぐ先、写真右側の木に隠れている岩山に、とある神様が祀られています。

↓こちらの石碑は「大明神」となっていますが、かつて上の部分があったようで「子安」大明神となっていたようです。「子安大明神(こやすだいみょうじん)」様は文字通り「安産」や「子育て」の神様だと言われています。

少し調べたところ、子安という名前がつく神社が各地に存在していて、祭神が「木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)」だったり「神功皇后(じんぐうこうごう)」だったりしており、もしかしたらそちらが起源となっている神様なのかもしれません。

ちなみに、木花咲耶姫は日本神話に登場する女神で「富士山本宮浅間大社」の祭神としても知られています。神功皇后は朝鮮半島の広域を服属下においたとされる「三韓征伐」という戦に、お腹に子供を妊娠したまま赴き指揮したという逸話で知られています。

ちなみに、左の木の札には「天神宮社 祈 安全登山」と記されています。天神宮社は日向山の麓、北杜市白州町にある神社で「菅原道真(すがわらのみちざね)」公を祭神としています。菅原道真公は学問の神様として今も多くの人に親しまれています。

↓実は、日向山の、この場所からだと「富士山」が見られるんです!(薄くてすみません)そして・・・

↓少し右側に視線を移すと鳳凰三山のひとつオベリスクで有名な「地蔵岳(じぞうだけ)」、日本の三大急登のひとつ「黒戸尾根(くろとおね)」から名峰「甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)」までの美しい山なみまでが見られる、とても贅沢な場所なんです。

日向山の山頂に広がる白砂の風景はいかがだったでしょうか?

標高1660mと、2000mを超えない山でありながら独特の個性をもつ日向山の良さはきっと、日本に存在する多くの山と同じで、標高ではナンバーワンではありませんが、もともと特別なオンリーワンばかりなのかもしれませんね笑

そこだけにしかない風景や、そこに根付いた植物や文化、先人たちが残した史跡や、野鳥や動物とのふれあい(クマやスズメバチなど危険生物は勘弁ですが笑)、たまたまそこで出会った人との一期一会。とても楽しく、とても貴重に感じます。

これからもいろいろな風景を見たいですし、お届けしたいなって思います。

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