当ブログ「賢者の森」でも何度となく紹介させていただいておりますが・・・
ここ山梨県北杜市は東・西・北の三方それぞれを「奥秩父山地」「赤石山脈(南アルプス)」「八ヶ岳連峰」といった日本を代表するような大きな山に囲まれ、とても自然豊かな地域となっています。
それだけに、人間が抗えないような自然の厳しさもありますが、自然から得られる恵みや癒しにとても感謝することも多いです。
そんな東の奥秩父山地には、クライミングで有名な「小川山(おがわやま)」「瑞牆山(みずがきやま)」、奥秩父の盟主と呼ばれる「金峰山(きんぷさん)」などがあり、それら南北に連なる稜線の西側斜面から流れ出る水は例外なく、ひとつの湖へと注ぎます。
それが、「みずがき湖」です。
「みずがき湖」はダム湖(人造湖)としての名前で、正式名称は「塩川(しおかわ)ダム」といいます。例えば、八ヶ岳南麓の清里高原にある「きよさと湖」も、正式名称は「大門(だいもん)ダム」といいます。
塩川ダムの名前にもなっている「塩川(しおかわ)」は、金峰山付近に端を発し増富温泉郷を流れる「本谷川」、瑞牆山付近に端を発する「釜瀬川」が合流して「塩川」となります。現在、この合流地点が塩川ダムとなっており、実質、このダムを起点とした下流域が塩川ということになります。
この塩川は、河川勾配が急なこともあり、台風や大雨などの増水によって水害をもたらしていました。山梨県は塩川の河川改修を実施してきましたが、川幅の拡幅による河川改修がもはや困難である状況から、ダムの建設に至りました。
山梨県は1970年(昭和45年)に予備調査を開始、その後、1989年(平成元年)に本格的な建設工事の着手に入ります。1997年(平成9年)に湛水(※1)を開始、1998年(平成10年)に完成を迎えました。
※1)たんすい。水田などに水を湛える(たたえる)こと。
それから現在に至るまで、みずがき湖(塩川ダム)によって治水(水害防除)の役割が果たされています。同時に、昔から水の少なかった茅ヶ岳山麓地区のかんがい用水、須玉町・韮崎市・明野町・双葉町に対して水道用水の供給、ダムからの放流水を利用した最大1100Kwの電力を発生する水力発電と、人々の生活も支えています。
みずがき湖ビジターセンター
みずがき湖の畔には、「みずがき湖ビジターセンター」があります。
ここでは、休憩のほか、レストランでの食事、売店で特産品などのお買い物ができます。また、トイレも完備されておりバリアフリーになっています。駐車場は、普通車80台+大型車5台と、とても広くかなりの余裕があります。
ちなみに、「ビジターセンター」とは、国立公園や国定公園などにおいて、その自然(地形・地質・動植物)などの情報を展示・解説し、公園の利用案内を行っている施設のことをいいます。
特に、この地域は貴重な自然環境を有した地域となっており、「秩父多摩甲斐国立公園」として国に指定・保護・管理されています。
「秩父多摩甲斐国立公園」は、標高2601mの「北奥仙丈岳」を主峰とする奥秩父山地を中心とした東西約70km・南北約40kmという広さを有した、森林美と渓谷美が特徴的な山岳公園となっています。
みずがき湖の先には、甲斐(山梨)の戦国武将「武田信玄(たけだしんげん)」の隠し湯として知られる「増富温泉郷(ますとみおんせんきょう)」、そして瑞牆山および「みずがき山自然公園」周辺があり、まさにその玄関口といえる場所です。
当然、ビジターセンターを起点に、みずがき湖を周遊するのも楽しいです。
みずがき湖は、そこを取り囲む道路を一周すると約3.8kmになります。豊かな自然の中、各所に見どころがあったり、案内板や休憩スペースが設置されていたりしますが、歩道が不十分なので、歩く際には車に十分にお気を付けください。
では簡単ではありますが、ここからは、ビジターセンターを起点に反時計回りに一周して見られるポイントを紹介させていただきたいと思います。
増富大橋
みずがき湖のほぼ南に位置するビジターセンターから東(湖に向かって右側)に回り込んでいくと、「増富大橋(ますとみおおはし)」を渡ります。
増富大橋は、金峰山付近に端を発し増富温泉郷を流れてくる本谷川にかかる橋です。
増富大橋の、橋で一般的に「親柱」と呼ばれる場所には、とてもキレイな装飾がされており、見る人の目を楽しませてくれます。
橋は方角で南北に伸びていますが、橋の北側(下記写真の手前側)は路肩が少し広くなっていて車が停められるようなスペースが存在します。
増富大橋の、とある場所に立つと南アルプス「鳳凰三山(ほうおうさんざん)」の山々がとてもきれいに見ることができます。
手前、湖畔に建っている家は「みずがき湖ビジターセンター」です。
立ち位置を変えると、ダムの堤体、塩川ダム管理事務所、そしてみずがき湖の風景の中でシンボル的な存在である「鹿鳴峡大橋(ろくめいきょうおおはし)」が望めます。
橋の上から上記写真の逆方向、方角でいうとほぼ東を望むと本谷川です。このすぐ先、上流側は「通仙峡(つうせんきょう)」という渓谷です。
増富大橋の上空にはトンビが気持ち良さそうに飛んでいました。
みずがき湖展望所
増富大橋から北西方向、みずがき湖をさらに回り込んでいくと「みずがき湖展望所」という、とてもきれいな東屋(※2)があります。
※2)あずまや。屋根を四方にふきおろし、壁がなく柱だけの小屋。庭園などに休憩所・展望所として設けられる。四阿(しあ・あずまや)とも書く。
ではここからは、みずがき湖展望所から見られる風景を、鹿鳴峡大橋から左に視線を移しながらご紹介していきます。
塩川ダム管理事務所と塩川ダムの堤体です。堤体から向こうは塩川という川になります。堤体の上は山梨県道610号線です。
この山を、トンネルが貫いています。個人的に・・・この山の上に展望台があったらきれいな風景を望めそうだなぁって思います。
みずがき湖ビジターセンターです。写真中央には、「金ヶ岳(かながたけ)」「茅ヶ岳(かやがたけ)」が見えています。茅ヶ岳は、日本百名山の作者・深田久弥(ふかだきゅうや)氏の終焉の地としても有名です。
みずがき湖展望所の天井は木造のとてもきれいな造りをしていますが、柵も可愛らしいデザインで造られていて、東屋全体がほっとできる空間になっています。
そして、所々に散りばれられているタイルのデザインも町(須玉町)の花・鳥・獣をあしらった可愛らしいものになっています。
霊泉・ヨシヤーの湯
みずがき湖展望所から先、やや北東に進むと屋根が六角形の東屋が現れます。ここからの風景もなかなかのものではあるのですが・・・
隣接した階段を下っていき、その先に進むと・・・
「ヨシヤーの湯」という秘湯があるんです!
「ヨシヤーの湯」の由来
甲斐国志に「塩川ノ霊泉、塩川組ニアリ、冷泉ナリ」と記載されており、その存在は古くから知られていました。
この霊泉は、旧塩川集落から塩川沿い上流約1kmの水田の片隅の「葦(ヨシ)(※3)」の中に湧き出し、沸かして風呂場とした湯小屋が近くに作られ、切り傷や神経痛などにも効くと評判が立ち、集落の人ばかりでなく遠方からの湯治客も利用していたと言われています。
このことから、「ヨシヤーの湯」と呼ばれていたそうです。
※3)葦とは、イネ科の植物。もともとの呼び名は「アシ」で、およそ平安時代までは「アシ」と呼ばれていた。8世紀頃になると人名や土地の名前に縁起の良い漢字2字を用いる習慣が一般化した。「葦(アシ)」についても「悪し」を連想させ縁起が悪いとし、「悪し」の反対の意味の「良し」に変え、「ヨシ」と呼ぶようになった。同様の意味で、葦原も吉原になったといわれている。
しょっぱい「ヨシヤーの湯」
平成24年の水質検査では、ナトリウム及びその化合物が845mg/L、塩化物イオンが1390mg/Lの他、蒸発残留物が検出されるため飲用には適していませんが、塩味が強く、また、サイダーのような炭酸水の味がします。
塩味のする霊泉は、その昔、塩を取ったと伝承されており、「塩川、昔山塩ヲ産シ水一升ニテ三勺余リ有ト云ウ」との記録が民家に残されています。
「塩川」の由来
この霊泉は塩味がすることから、いつの頃からか、この流れを「塩川」と呼ぶようになったとされています。
※塩川ダム管理事務所では、「塩川」の名前の由来ともなっているこの霊泉の存在を、塩川ダムの建設に協力頂いた地域に代わって後世に伝えていくとの思いを、ここに記載しています。「賢者の森」でもブログを通じて、できるだけ多くの人に伝えていけたらと思っております。
鹿鳴峡大橋
ヨシヤーの湯から、みずがき湖を西に回り込んでいくように進むと山梨県道610号線に入ります。その先には、瑞牆山付近に端を発する「釜瀬川」にかかる鹿鳴峡大橋があります。
鹿鳴峡大橋は、「ニールセン・ローゼ橋」というアーチ橋です。
ローゼ橋というのは補剛桁(=道路となっている下の平らな部分に剛性をもたせた桁)とアーチ部材(=上のアーチ部分)の双方で曲げモーメントを分担する橋です。
補剛桁とアーチ部材がほぼ同程度の厚みを持つことが外見上の特徴となっており、特に、ニールセン・ローゼ橋はアーチ部材から補剛桁にケーブルが斜めに張られています。
みずがき湖展望所には、鹿鳴峡大橋の架設工法も紹介されています。
この「ニールセン・ローゼ橋」という形式は、大規模な橋梁に採用されることが多く、鹿鳴峡大橋のように、橋台と橋台との間を単径間で架設する場合に適しています。また、そんな強さに加えて、軽快な外観、走行する上で視界の妨げが少ないという特徴も、国立公園に位置する橋として選ばれている理由といえます。
塩川ダム管理事務所
鹿鳴峡大橋を渡った先は、塩川ダム管理事務所です。
塩川ダム管理事務所にも展望所が併設されていて、その先まで進んで行くと・・・
(あ。トンビが飛んでる)
ダムの堤体と山を貫くトンネルがこのように近くに見え、なかなかの迫力があります。
重力式コンクリートダム
塩川ダムは「重力式コンクリートダム(グラビティーダム)」という型式のダムです。
主にコンクリートを主要材料として使用し、コンクリートの質量を利用しダムの自重で水圧に耐えるのが特徴です。ダムとしては最も頑丈な型式であり地震・洪水に強いことが利点のため、地震や降水量の多い日本では最も適した型式でもあるといわれています。
ロックフィルダム
そして、ダムの堤体の左岸・ビジターセンターの足元は「ロックフィルダム」という型式でできています。
内部は、中心部を粘土、その両脇を砂や砂利、外郭部を岩石で覆う三層五重に分かれた構造をもっています。
中心部の粘土質はコア材(遮水壁)とも呼ばれ、このコア材が水をせき止めます。その両面の砂や砂利からなるフィルター材はコアが崩れないように支え、さらにその外側に敷きつめたロック材を幅広く積むことで、コアとフィルターを支える構造となっています。
写真は一旦ビジターセンターに戻りますが、広く足元に岩が敷きつめられているのが分かるかと思います。
故郷の碑
塩川ダム管理事務所のある展望所には、「故郷の碑」という、とても大切な碑が立てられています。
ー 由来 -
“ 塩川は、須玉町をはじめ沿岸地域の母なる川として昔から人々のくらしを支え親しまれてきました。しかし、一方ではたびたび大きな水害を引き起こし人々を苦しめ、また、田畑はしばしば深刻な水不足に見舞われてきました。
このため山梨県は、ダムの機能により下流の水害を防止し、地域の人々のくらしの水をたくわえ、また、茅ヶ岳山麓にうるおいをもたらすため、この地に塩川ダムを造ることにしました。
しかしながら、湖底に沈む須玉町塩川区に居住していた三十六世帯の方々がやむなく先祖伝来の御巣鷹山の里を離れることになりました。
ここにダム建設に対して深いご理解とご協力をいただいた皆様の氏名を明記し感謝の意を表します。 ”
森と水と星の みずがき湖
塩川ダム管理事務所の先、ダムの堤体の上を渡るように進み、その先のトンネルを抜けると、再びみずがき湖ビジターセンターへ戻り、一周3.8kmみずがき湖周遊の旅は終わりを迎えます。
実は、みずがき湖(ビジターセンター)では、とある人(?)が待っていてくださっています。そのかたは・・・
ラジウム星人さんです☆
出身は「NCC4565宇宙ラジウム星」。
太陽系代惑星地球に強いパワーを感じ、調査のためUFOで飛来。不時着に失敗し、大破した宇宙船を修理しながらラジウム温泉につかる日々を送っている。いつかラジウム星に帰る日を夢みている。
得意技は「ラジウム光線」。相手に放ったラジウム光線は、相手を気持ち良く癒し、ケガや病気を治してしまう。
普段の不気味な目は、ラジウム温泉につかり過ぎ、ゆるくなってしまったもの。
・・・とのことです(←設定)。みずがき湖に来た際には、記念にぜひ御一緒に写真など撮ってみてはいかがでしょうか?(笑)
ちなみに、「ラジウム温泉」とは、この地域で「増富温泉」のことを指します。
みずがき湖ビジターセンターには2階にレストランがありますが、1階にもこのように気持ちの良いテラス席があります。
また、気持ちの良い芝生の広場もありますので、ペットと戯れたり、レジャーシートを敷いてのんびりしたりするのも良いかもしれません。
※ペットのフンやゴミは必ず片付けてお帰り下さい。
芝生広場のそばには、鹿たちと「水瓶の女神」的な像があります。
みずがき湖周辺にある橋や東屋の装飾もとてもきれいなのに、作者や作品名が書かれたようなものは見つけられません(見落としていたらすみません)。
そもそも、橋やダム自体にも言えることなのですが、ものすごく立派に作られていて、ここに携わった名も無き人たちの懸命さが垣間見えるかのような場所です。
ここは夜になると星もとてもきれいなようで、星の観察イベントなどもおこなっているようです。また、ダムの見学や、森と湖と親しむようなイベントもありますし、もしこちらに来られる際にはちょっと立ち寄られてみてはいかがでしょうか?
何気ないダム湖ですが、周遊してみると、きれいな森と湖や空飛ぶ鳥の風景に癒されたり、かつてそこにあった歴史や住んでいた人たちの風景を想像してみたり、橋やダムなど巨大な建造物を造った地上の星たちの想い、そしてそれによって守られている今の暮らしなどを感じると、とても深く意味があり、面白い場所であると思いました。