八ヶ岳南端の二峰 -編笠山&西岳- ②西岳編(2話 / 全2話)

2017年8月16日時点で、東京の都心は今月に入ってから16日連続で雨が降っています。これは、22日間連続で雨が降った40年前の1977年(昭和52年)8月に次いで、2番目に長い記録となっているそうです。東京の都心から直線距離で約123km離れた、ここ山梨県北杜市清里でも同様の天気が続いており、日差しの暖かさが懐かしく感じるほどです。

当記事の投稿日のほぼ二年前にあたる2015年8月15日はなかなかの好天に恵まれ吹く風もとても穏やかな天気の中、八ヶ岳の編笠山(あみがさやま)と西岳(にしだけ)に行ってくることができました。その時の様子を全2話でご紹介させていただいております。

登山口である観音平から編笠山山頂までの様子を紹介させていただいた前回の第1話から続きとなる第2話の今回は、編笠山山頂からスタートし北東側の直下にある青年小屋(せいねんごや)を経由し西岳に向かいます。編笠山とは違った魅力にあふれた西岳をお楽しみください。

西岳 編笠山から青年小屋まで

編笠山山頂を出発し北東方面に下る登山道に入るとすぐにハイマツやシャクナゲの交じる低木の樹林帯を下りながら進むようになります。ほどなくして樹林帯を抜けて目の前に現れるのが、ゴーロ帯と呼ばれる大きな岩がごろごろと堆積した場所です。

編笠山のゴーロ帯

このゴーロ帯、下記写真の中で歩いている人と比較するとお分かりいただけると思いますが、本当に岩が大きく、進むのが簡単ではありません。そのうえ、岩と岩の間に落ちると大変危険であったり、足の挫き(くじき)や捻り(ひねり)の危険性もあります。

人によってはかなり膝にも優しくないと聞きますので、もし行く際はどうぞお気を付けください。また、当日は気持ちよく晴れており青年小屋も目前に見えていましたが、霧などで視界が無い場合には、岩に書かれたマーカーを頼りに進むと良いでしょう。

青年小屋

ゴーロ帯を抜けた先にあるのは、テレビなどで紹介されたりするちょっと有名な山小屋。かわいらしい赤い提灯が目印の別名 “ 遠い飲み屋 ” と呼ばれている青年小屋さんです。

今回は、観音平 → 押出川(分岐) → 編笠山 → 青年小屋 と進んできましたが、青年小屋での一泊を前提に、途中の押出川の分岐で、山頂ではなく青年小屋方面へ進み、青年小屋に到着後、ここに荷物を降ろして編笠山山頂に向かうと楽です。今回は、軒先で小休憩させていただいて西岳に出発しました。

ヤナギラン

青年小屋の軒先で桃色のきれいな山野草を見つけました。この花はヤナギラン(柳蘭)という、アカバナ科ヤナギラン属の多年草です。葉が柳に似ていて、花を蘭に例えたことによりこの名前がついたとされています。軒先で良く目立っていて看板娘のようでした。

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西岳 青年小屋から山頂まで

ここを青年小屋は、今下りてきた南西方向の編笠山と北東方向にある権現岳の鞍部(※1)にあり、北西にある西岳と観音平へ下る登山道を含めた分岐点でもあります。今回は北西方面にある西岳に向かいます。

※1)鞍部(あんぶ)とは、山の地形で山と山に挟まれた低い場所を指します。馬に乗せる鞍の中間部のような形なのでこのように呼ばれています。また、山などで見かけるコル(col)と名前の付いた場所は、フランス語で鞍部を意味しています。

セリバシオガマ

西岳に向かう道の途中で白いかわいらしい花を見つけました。こちらはハマウツボ科シオガマギク属の多年草、セリバシオガマ(芹葉塩竈)です。そしてこちらも、葉の形が芹の葉に似ていることからこの名前がつけられました。生えている場所がジブリ映画っぽく、美しい姿と相まって、とても幻想的な雰囲気でした。

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とある秘密の展望台から望む 抹茶かき氷

西岳山頂まであと少しの場所です。写真右側に見えるのが青年小屋がある鞍部です。小屋も小さく見えます。見てお分かりいただけるように豊かな樹林帯の中を進んできました。

上記写真から視線を右に移すと、このような景色が広がっています。西岳から見た編笠山も本当にきれいな山容です。まさに編笠でもあるのですが、豊かな緑が抹茶かき氷にも見えます。

西岳 山頂を彩る花の風景

ほどなくして、西岳山頂に到着しました。もし編笠山を “ 景色の山 ” とするならば、西岳は “ 花の山 ” といえるような気がします。また、「花あるところに蝶々あり」なのでしょうか、先に山頂に居た方々がアサギマダラという蝶を写真に収めようと追っていました。道中、山頂ともに、編笠山およびその周辺と比べると人がかなり少なかったですが、たくさんの花とゆったりとした時間にとても癒されました。

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それでは、山頂を彩る山野草とともに西岳をお楽しみくださいませ。

マツムシソウ

夏の後半から秋にかけて高原を彩るマツムシソウ(松虫草)です。一説によると、マツムシ(スズムシ)が鳴くころに咲くことが和名の由来であるとされており、貴重な日本固有種の植物です。しかし2017年現在、31の都道府県で減少傾向にありレッドリスト(絶滅の危機に瀕している野生動植物のリスト)に指定されています。

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リンドウ

こちらはリンドウ(竜胆)です。生薬:リュウタン(竜胆)の原料のひとつとして用いられており、苦味が強く「まるで竜の肝(きも)のようだ」というところから竜胆(りんどう)と名づけられたといわれています。

イブキジャコウソウ

イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)。シソ科イブキジャコウソウ属の小低木です。和名は伊吹山(いぶきやま)という滋賀県と岐阜県にまたがる日本百名山に選定されている山に由来し、芳香があることから名づけられました。

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オノエイタドリ

こちらはタデ科の植物ですが、特徴から、イタドリ(虎杖)という植物の中で高山性のオノエイタドリ(尾上虎杖)ではないかと思われます。というのも、同じタデ科の植物で良く似たオンタデ(御蓼)があり、見分けるのがかなり難しいです。

オノエイタドリは富士山でよく見られることから別名フジイタドリ(富士虎杖)とも呼ばれており、とくに紅色を帯びた花を咲かせる種はメイゲツソウ(明月草)という美しい名前で呼ばれています。

キイチゴ

岩間にキイチゴ(木苺)を見つけました。

ヤマハハコ

こちらはヤマハハコ(山母子)というキク科ヤマハハコ属の多年生植物です。白色で花びらのように見えるのは総苞片(そうほうへん)という花全体を保護するための小形の葉です。花は中心の黄色の部分になります。全体が綿毛に覆われ、ふんわり優しく見える花です。

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ハクサンフウロ

最後になりました。フウロソウ科フウロソウ属の多年草、ハクサンフウロ(白山風露)という高山を代表する植物のひとつで、直径3cmほどの可憐な花を咲かせます。

植物の名前の前半についているハクサンとは、石川県と岐阜県にまたがる白山(はくさん)という山のことで日本百名山にも選定されています。また白山は、富士山(ふじさん)、立山(たてやま)もしくは御嶽山(おんたけさん)と並んで日本三霊山のひとつに数えられています。

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そして、植物の名前の後半についているフウロとはフウロソウを指しており、花の上の露が風で動くという美しい情景にちなんで「風露草」と書きます。

ハクサンフウロ(白山風露)は、白山(はくさん)で発見され、花がフウロソウ(風露草)に似ていることから、このように名づけられました。

八ヶ岳南端の二峰 西岳編 [おわり]

全2回でご紹介した編笠山・西岳はいかがでしたでしょうか。景色の編笠山、花の西岳、そして遠い居酒屋と、その魅力がみなさまに少しでも伝えられたなら嬉しく思います。また、その中に貴重な動植物や美しい景色など、後世に伝えていきたい自然の大切さを一緒に感じていただけたなら最上の喜びです。

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